阿賀野川のむかし話

恩を返したお地蔵さま旧新津市(現新潟市)

恩を返したお地蔵さま

 ずっとむかし、中野にあったお話です。
 そのころ小阿賀野川は大雨のたびに土手がきれて田畑の作物が流されました。
 ある年、また大雨が降りつづき、村人は心配そうに川をみていました。すると人間らしいものが浮き沈みしながら流れてきます。けれども、さかまく川波にしりごみして、助けにいく人はありません。  そのときです。元気ものの吾平じいさんが、3人の若ものと濁流の中へ舟をこぎ出しました。4人はびっくりしました。人間だと思って助けたのは石のお地蔵さまでした。そして岸へ引き上げると、ぽろっと首がとれてしまいました。吾平じいさんは不思議に思いましたが、お地蔵さまを近くの小屋にいれて、家へ帰りました。
 その夜ふけのことです。吾平じいさんの家が火事になりました。吾平じいさんは気ちがいのようになって、村人たちといっしょに火を消そうとしました。
 そのとき、急にくらやみの中から、いままでみたこともない大男があらわれました。
 「村の人たち、ひるま助けてもらったお礼じゃ。火事はわしにまかせてくだされ。」 と叫ぶがはやいか、手おけの水をさっとかけました。不思議なことに、水は後から後から滝のようにふりそそぎ、たちまち火は消えてしまいました。村人はあまりの不思議さに、しばらくぽかんとしていましたが、はっと気づいたとき、もう大男の姿は消えていました。
 つぎの日の朝、村人はまたもや不思議なことに出あいました。
 小屋にいれてあったお地蔵さまの首が、もとどおりにくっついているのです。そのうえ小屋の中は水びたしで、こげくさいにおいがし、お地蔵さまはすすだらけになっていました。 「これはお地蔵さまが火を消して下さったのだ。」 村人はその後、このお地蔵さまを「火消し地蔵」と呼んで大切にしたということです。