砂防事業概要

黒部川流域の概要

北アルプスの中央部にそびえる鷲羽岳(2,924m)を源流とし、3,000m級の山々が連なる立山連峰と後立山連峰の間を富山湾に向かって北へ流れる流域面積682km2、幹川流路延長約85km、山地部平均河床勾配1/5~1/80の日本有数の急流河川です。山々の間を侵食して刻み込んだ深い谷は「黒部峡谷」として全国に知られています。さらに、黒部川上流域一帯は中部山岳国立公園に指定されており、切り立った岩肌が谷を見下ろす雄大なV字峡がいくつも続き、ブナなどの原生林や高山植物のほか、ライチョウ、カモシカなど多くの貴重な動植物が生息する自然環境が広がっています。また、流域内には黒部峡谷鉄道のトロッコ電車が走り、昔から豊富な湯が湧き出す温泉地があるなど、観光地としても著名となっています。


  • 猿飛峡

  • トロッコ電車

  • 宇奈月温泉街

  • ブナ林

崩壊面積率比較図

黒部川流域は、降水量が豊富でかつ豪雪地帯でもあり、流域平均の年間降水量は日本最大級です。山地の仙人谷では約4,000mmもあります。そのため、豊富な流量と急勾配地形の落差を利用して水力発電が盛んに行われています。
上流域の急峻な山岳地形は、新生代に起こった著しい隆起の後に、激しい侵食を受けて形成されたものです。また、山地部の地質は花崗岩類が主体です。それらのほとんどは表層の風化が進んだ脆弱な岩で断層も発達しています。ですから、山地部の侵食が著しく地形も極めて急峻なわけです。

黒部川流域全体の山地崩壊は約7,000ヶ所、面積比率は5%近くにも及びます。これは全国トップレベルの比率です。その代表的なものは、祖母谷、小黒部谷、不帰谷の3ヶ所で、「黒部三大崩れ」と呼ばれています。これらから流出した土砂と集中豪雨により幾度となく洪水や土砂災害に見舞われる黒部川は、古来より暴れ川として「いろは川」「黒部四十八ヶ瀬」と呼ばれ恐れられていました。


  • 祖母谷崩壊地

  • 小黒部谷崩壊地

  • 不帰谷崩壊地

土砂災害から守る

普段は清らかな流れも、いったん自然の驚異にさらされると、災害となって流域を襲います。平成7年7月10日、北陸地方に停滞した梅雨前線は21日まで断続的に降り続き、黒部川上流部では大規模な崩壊が発生し、大量の土砂や流木が出し平ダムに流れ込み、湛水池周辺に約340万m3の土砂が堆積するなど、黒部川中流域に約600万m3もの土砂が堆積しました。また、黒部峡谷鉄道が寸断されるなど交通網や発電・観光施設に大きな被害が生じ、昭和44年以来の大災害となりました。


  • 黒部川第2発電所被災状況

  • 黒部峡谷鉄道被災状況

  • 宇奈月温泉泉源埋没状況

流域図

黒部川水系砂防事業は、黒部峡谷固有の自然観光資源、観光施設及び発電施設等を1回の大洪水でおきる土砂流出による災害から未然に防ぐため、さらに下流域の多くの人々の生活を被害から守るため、砂防えん堤施設等を整備しています。昭和36年に祖母谷から直轄砂防事業に着手して以来、昭和44年に黒薙川、昭和53年に野坊瀬谷、昭和57年に小黒部谷と順次着手し、現在までに祖母谷10基、黒薙川5基、野坊瀬谷2基、小黒部谷1基の計18基の砂防えん堤が完成しています。今後も、黒部峡谷の自然環境との調和・コスト縮減に配慮しながら砂防事業の推進を図っていきます。