”焼岳は微妙な色彩のニュアンスを持っている。濃緑の樹木と、鮮やかな緑の笹原と、茶褐色の泥流の押出しと、---そういう色が混り合って美しいモザイクをなしている。しかも四季の推移によって、そのモザイクも一様ではない。ある秋の晴れた日、焼岳はまるで5色の着物を着たようにみごとだった。”
”焼岳は附近の群雄に比べたら、取るに足らぬ小兵かもしれぬ。だが、この小兵は他に見られぬ独自性を持っている。まず、日本アルプスを通じて唯一の活火山である。頂上から煙が上がっている山はほかにない。”
”それから、小兵の分際で、梓川の風景を一変した。その爆発で大正池を作りあげたのである。人はよく「国破れて山河あり」という文句を引いて自然の不変を説くが、一挙にてあの大きな変貌をおこした焼岳の潜在力は偉大である。”
(深田久弥「日本百名山」より)