昔々、そのまた昔のお話です。
安曇平(あずみだいら)は、高い 山から落ちる水がたくさん集まって、まるで海のような、大きな大きな湖でした。
北は佐野坂(さのさか)から、南は塩尻(しおじり)まで、十何里(※)もまんまんと水をたたえ、そこには犀竜(さいりゅう)という主の女神様が、水の底深くに住んでいました。
また、はるか高井(たかい)のむこうの高梨(たかなし)の池には、白竜王(はくりゅうおう)という、同じように竜の姿をして、口に立派なひげをはやした神様が住んでいました。
この二人の神様が雲を呼んで行ったり来たりしているうちに、いつしか一人の男の子をもうけました。
男の子は、きれいな泉のほとりで生まれたので、泉の小太郎(こたろう)と名付けられ、ぜひ人間の子として育てたいという白竜王の願いで、放光寺山(ほうこうじさん)に住む正直者のおじいさんとおばあさんにあずけられました。
しかし、母親の犀竜は、わが子との別れがつらくて、つら くて、夜もおちおちねむることができません。湖のほとりにお菓子をそおっとおいてきたり、水の中から聞き耳を立て
たり、毎日、小太郎のことばかり考えて過ごしていました。
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