「阿賀川・川の達人の会」について

講演抄録「総合的な学習支援と地域との関わり」
■子どもは大人を鏡にして育つ
 子どもは生まれてからある時期まで、純粋に育ちます。ところが、大人はさまざまな影響を子供に及ぼし、その純粋な感性を変質させていきます。
 ある時、子どもたちの団体に遭遇しました。一人の子どもが急に立ち止まりました。膝に泥がはねたからです。引率していた大人が「泥にはバイ菌がいっぱい」といって、素早くウェットティッシュで拭き取とりました。子どもが急に立ち止まったのは、泥は「汚い」「触ってはいけない」「泥のまま家に帰ってはいけない」という躾の影響を受け、行動に現れた一例といえます。
 いまの子どもたちは、山や川で遊ぶことが極端に少なくなっています。とくに都市部では、自宅か友達の家、公園しか遊ぶ場がありません。
 公園といえば、けがや死亡事故が頻発した「箱ブランコ」の問題がありました。親が公園の管理責任を問う裁判にもなりました。子供たちに対して「川や山は危険だ」という一方、「家に閉じこもり過ぎ」と公園で遊ばせたところ事故が起こった。そして、大人の解決方法は箱ブランコの「使用禁止」と「裁判」でした。
 生き生きとしたすばらしい感性を育てていこうと、総合学習の場として子供たちを山や川という自然の教材の場に連れて行く。しかし、自然と人間との関わりの中では、事故は避けて通れない部分があります。いざという時にどうするか。こうした点について、学校は十分に対策を練って行動することが必要になってきています。

杉原陸夫氏写真

■講師:杉原陸夫(すぎはら・りくお)氏
福島県立四倉高校、福島高校校長、福島県教育長を経て、現在は福島県文化センター館長。学校教育問題についての講演・執筆にも精力的に活動。朝日新聞・福島版に連載した「窓の向こうに」は好評を博した。

会場の写真

地元中学・高校の先生も出席。「総合学習が始まったばかりで不安。子どもたちの関心を引き出すための参考にしたくて参加した」と熱心に聞き入っていた。
■学校と地域の密なる連携が重要
 いま、子供たちは自然からいろいろな知恵を学ぶ機会が少ない学校生活を送っています。この春から「総合的な学習の時間」が生まれたことは、こうした反省を含めて出来た時間だと思います。
 文部科学省ではその趣旨として、「子どもが主体的に使うことのできる時間を増やし、学校、家庭、地域社会が相互に連携しつつ、子供たちに社会体験や自然体験を経験させ、自ら学び、考える力や豊かな人間性、健康な体力など生きる力を育むこと」が狙いだとしています。
 いまの子供たちは、レールの上を走れば目的地に着くような勉強の仕方に慣れ親しんでいます。「そこから外れて自分で何かを見つけて行動しなさい」と言われても、なかなかできません。
 そこで、「阿賀川・川の達人の会」をはじめ、地域やボランティアのみなさんが自然を題材に学びの場を提供していくことはとても意味のあることです。子どもたちが自然からいろいろなヒントを吸収して、生きていくための知恵につながる何かを発見できる場となれば、これは最高だと思います。
 そうなるためには、いかに「子供たちの発達段階に合わせた学びの要求に応え、提供していく仕組みが出来るか」が重要なポイントになります。地域やボランティアの方々が学校と密度の濃い話し合いを十分に重ね、互いに「何を子供たちに与えていくか」という視点を共有することが不可欠です。
 大人が与える場面の中で、子どもたちが安心して、多角的な学びの場を準備していただけるであれば、学校は本当に安心して地域やボランティアの方々に子どもたちを任せることができます。そして相互の連携を強めながら、総合学習の時間を“密度の濃い時間”として成長させていくことが実現すると思います。
 総合学習の時間は、学校にとっても初めての時間です。これを生かすためには、学校の力だけでは出来ないことが十分にわかっています。学校が自からの枠を超えて外に働きかけた時には、地域やボランティアの方々が大きな受け皿となって学校を支えていくことが必要だと思います。(文責・小紙編集部)


 
国土交通省北陸地方整備局