多自然川づくり(河川法の改正の背景と粗朶沈床)について


 日本の河川制度は、明治29年に旧河川法が制定されて以来、幾たびかの改定を経て現在に至っております。
 戦後焼け野原になった日本の各地で、大洪水が次々と発生し、早急に水害に対し安全性を高める必要がありました。また、国力の弱い戦後の日本は、国土再建のため早く、効率の良い工法で河川改修をする必要がありました。
 昭和39年に制定された新河川法は、国の水系一環管理制度の導入など、治水、利水の体系的な制度として整備が図られ、今日の河川行政の規範としての役割を担ってきました。
 即ち、用地面積が少なく、速やかに洪水を海へ導くため、河川を直線化することや、強度の強いコンクリートを使用し、効率的な治水、利水事業を行ってきました。
 また、荒廃した急流河川の治水工法の研究においても、優れた河川技術者が多数たずさわり、多くの英知を私たちに残してくれました。
 なかでも、河床洗掘を防止するため考案された、根固工十字ブロック(コンクリート)は、河道の安定に大きく貢献した技術の一つと言えます。

 しかしながら、その後の社会経済の変化により、近年、河川制度をとりまく状況も大きく変化し、河川は単に、治水、利水の役割を担うだけでなく、うるおいのある水辺空間や多様な生物の生息・生育環境として捉えられ、また、地域の風土と文化を形成する重要な要素としてその個性を活かした川づくりが求められております。
 こうした変化を踏まえて、平成8年12月、河川審議会において、「社会経済の変化を踏まえた今後の河川制度のあり方について」提言がなされ、建設省では、この提言に基づき、これまでの治水、利水を中心に規定された河川法(昭和39年制定)の改正の検討を行い、平成9年第140国会に、河川の持つ自然環境、河川と人との関わりにおける生活環境等「河川環境」が明確に位置付けられた「河川法の一部を改正する法律案」を提出し、同国会において可決成立しました。

 河川は、水と緑の貴重な環境空間であり、子供達が五感を使って自然を体験し、学ぶ大切な公共空間です。これからの河川事業においては、河川の安全確保を第一にした上で、少し増高になっても、自然豊かな水辺空間を整備していくこととしております。

 「多自然川づくり」は自然の樹木や石などを利用した個性のある河川の創造と考えておりますが、欠かせない素材の一つに粗朶があります。
 粗朶を使った代表的な工法の一つが、粗朶沈床であり、明治の初期に関東の淀川において、オランダ人技師エッセル、デ・レーケの各氏により、河川工法として使用されたのが初めてであると言われております。

 また、粗朶沈床は、自然の山繁殖している雑木を用いて組み立てるもので、大きさを自由に定めることが可能であり、地形に沿って設置できなど、屈とう性にも富んでいることから、多様な生物の生息や生育環境などの創造にも大きな期待がもてる工法です。
 このような自然にやさしい粗朶工法も、全国では、@粗朶等の伐採作業をする労務者不足や労働者の高齢化により資材の供給が困難とか、A組立技術者の不足などで採用が減少されつつあります。
 北陸地方(特に新潟県)は、全国で粗朶工法が採用されなくなっている今でも、粗朶の生産が着実に続けられているとともに、工事現場では従来の工法を伝承する一方、機械施工が可能な「新しい工法」も考案し、北陸の河状、海浜になじむ技術開発に取り組んでおります。


もどる