「地域の素材を生かした社会科・総合的な学習の実践」
岐阜大学教育学部教授 北 俊夫

 波田町立波田小学校では、地域の「川」を教材化して、社会科や総合的な学習の実践に取り組んでいる。
 その一つが、社会科の「郷土を開く」の実践である。まず子どもたちに町内にある波田堰と波多腰六左の存在を知らせている。次に、波田堰が作られたことによって、地域の人々の生活が豊かになったことに気づかせ、「どうして、こんなに変わったのかな?」と、中心発問を投げかけ、一人ひとりに疑問や問題を書かせている。地域の事象を主体的に調べるようにするためには、自分の学習問題をしっかりもつことが大切であり、本時はそのための時間である。
 子どもたちは、その後開削における工夫や苦心について具体的に調べ、地域の発展に尽くした波多腰六左という先人の働きを考えたことと思う。現在の私たちが、豊かにそして安全な生活が維持・向上できる背景には、先人の努力がある。このことを子どもたちに理解させることは、地域の一員としての自覚を育て、地域の発展にかかわっていこうとする態度を養ううえできわめて重要である。
 今一つは、4年生の「川」をテーマにした総合的な学習の取り組みである。いずれも「梓川」を中心に据えた実践である。そこでは、子どもたちが川に生息する生き物や水辺の環境を調べるだけでなく、流域でのケショウヤナギの観察・調査、河原の石を使ったストーンアート、川遊び、川の清掃、川辺でのアウトドアクッキングなど、じつに様々な体験的な活動を組み入れている。文字どおり「梓川」をキーワードにした総合的な学習である。
 本実践は、川を学習の対象として、また学習の場として活用することによって、子どもたちが川に対して親しみをもつようにしているところに特色がある。



 農業に使う水の確保は、日本はもちろん世界各地で昔から大きな課題でした。いかに水を安定的に確保して、有効に使うかに人々は多くの苦労と努力を重ねてきました。
 「波田堰」は、水の大切さやそれに大きく依存する農業、そして水を引き込んで農地を広げるために貢献した人々の思いや努力・工夫を知るための絶好の教材です。
 子どもたちも、現地見学をしたり、調べたりする中で実感をもって学んだようです。貢献者、波多腰六左のように他人に考えを伝え、説得することのたいへんさや、水の取り入れ口から農地までの落差やルートなど、水を引くための計画・計算が重要なことも理解できますね。

 急な勾配の川が流してきた土石は、谷の出口で勾配が緩やかになるとそこに積もっていきます。たびたびの洪水で土石は、谷の出口につもり、それが重なることでだんだんと扇状になります。これを扇状地といいますが、こうした土地は砂や石が多くて水はけが良すぎ、川が地下水になってしまうので、農業に利用しづらいなど多くの苦労が伴いました。また、高い山から流れてきた冷たい水を温めるため、長い水路を作る場合もありました。



 下波多村の波多腰六左は、梓川段丘面に広がる畑を耕作していた住民の、水を引いて水田にしたいという願望を実現させるために長い歳月と私財を投じた人物です。当時この地域では、水田は耕地のごくわずかしかなかったと言われています。
 しかし波田堰の建設には、数多くの難関が待ち構えていました。水を引き込む川の上・下流の村や、引いた水の利用可能地の調整、難工事、資金調達、藩(県)との交渉などです。

当時の一大プロジェクトであったようです。しかし、六左はこうした難問に根気よく取り組み、ようやく明治10年頃に安定した水が流れるようになり、事業が完成しました。
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