EVENT DATE [2003.09.26]
 ■講 演  「現場技術者に役立つ話 ・・・・水辺は何を求めているのか」
 
長田 健
(ながた・たけし)
東京農業大学農学部卒業。
現在、
長野工業高等専門学校環境都市工学科講師、
長野県水辺環境保全研究会事務局長、
椛「景研究所代表取締役。
主な研究テーマは、淡水魚の生態に関する研究、コムラサキの生態に関する研究、園芸植物に関する研究。
著書に 「信州季節ごよみ」(共著・銀河書房)、 「水辺に生きる不思議な蝶―犀川のコムラサキ」(共著・アース工房)、 「信濃の清流・犀川」(分担・建設省千曲川工事事務所)などがある。
 
■ 発表概要
 千曲川には現在60種の魚が生息確認されている。しかしこの内訳は在来魚26種、移入魚34種と約6割の魚が人の手により移入された魚である。この移入された魚には外来種が多く含まれており、13種にまで増加している。このように千曲川水系の淡水魚は今や年々変転している状況にある。
 千曲川で実際にスキューバ潜水を行い、千曲川に生息するこれら多くの魚がどのような環境を好んで生息しているか、魚類のビオトープについて追跡調査を実施している。その結果、とかく忘れがちなワンド、タマリが生息魚にとっては大変重要な生息域となっていることが判明した。特にタマリは洪水時の避難場所であると同時に避難した魚が取り残される生息場所、子稚魚の生息場所、さらに止水域を好む魚の生息場所となっている。しかし、このタマリに湧水場所の存在の有無により残留魚類の生存に支障をきたす。つまり水温上昇による酸欠、泥土堆積等による水質の悪化など、タマリの水環境の変化に伴い、次の洪水まで魚類にとって生き続けられるとは保障がないのである。
 今までの水中潜水追跡調査から湧水の多いタマリでは多種、多様の魚が多くの年齢構成まで生息していることがわかった。また生息魚は水中構造物を生活場所の重要な生息空間に位置付けていることが判明した。  例えば多種の魚が生活の場に取り入れている構造物としては自然構造物では水中倒木、沈木、水中植物(抽水、沈水、浮葉植物)、水際で水面に大きくオーバーハングしている水際植物、転石群があげられ、人口構造物では木工沈床、蛇籠を利用して生活している魚が多い。また、木工沈床でも河床から上部にいくにつれ、階層で生息魚は種や年齢構成を異なっている場合も多くみられ、魚種によっては木工沈床の奥部までの利用が異なっていることも判った。さらに木工沈床も隠れ場、ねぐら場など魚種によってその利用目的も異なっている。
 これと同じように水面にオーバーハングした水際植物の下や水中倒木の下でも魚種、年齢構成で利用位置がある程度異なっており、さらに夏と冬の利用方法も異なっている場合が多いことが判明した。
 これらの詳細については下記に木工沈床と生息魚の使い分けとして例を示したので参照されたい。


例1. 木工沈床と生息魚の使い分け


階層別
 表層部〜上段:オイカワ、ウグイ、モツゴの幼魚
 上段〜中段 :モツゴ、タモロコ等の小型魚、ニゴイの若魚、フナ類の若魚
 中段〜下段 :ギンブナ、ゲンゴロウブナ、キンブナ、コイ、ニゴイ、ウグイ(河床)オイカワ、ウナギ、ナマズ

 ※ フナ類はかなり奥まで生息、ニゴイ、ウグイ、オイカワ、オオクチバス、ブルーギルは入口部
 ※ 夜間は大型のコイ、ニゴイ、がねぐらとして利用
 ※ オイカワ、ウグイ、モツゴの幼魚は水深が浅く大型魚の進入の少ない木工沈床脇では、昼間も河床近くを群れで遊泳するが、水深のある木工沈床では日中あまり行動せず、行動していても木工沈床脇を群泳し、夜間天敵の大・中型魚が寝てから水面にて捕食する。


例2. 沈床内部の流れの有無(同水深の2つの沈床の比較)

  沈床内を流水が通っている木工沈床
   ウグイ、コイ、ギンブナ、ゲンゴロウブナ、ウナギ、ナマズなどが利用。
  沈床内を流水が無い木工沈床
   ギンブナ、ウグイ、ドジョウなどが少数利用するだけ。
水面に約1.5mオーバーハングしている水際植物における生息魚の使い分け(昼間の利用)
入口部(〜約50cm位の水草に近い上部)
 ウグイ、オイカワなどの仔稚魚・幼魚
中間部(約50cm〜1m位の河床部)
 ウグイ、オイカワ、フナ類の成魚
奥部(1m以上奥の河床部)
 ナマズ、ウナギ、大型のニゴイ、コイ(ほとんどタマリ内を広く遊泳)

 今後河川改修計画などのビオトープ型川づくり、多自然型川づくりを実施するにあたってワンド、タマリ(湧水タマリ)の造成と転石群、水中、水際植物の再生、水中倒木、木工沈床などの構造物の設置が求められる。
また、施工後はこれら造成された構造物がどのように魚に利用されているか、魚の専門家によるスキューバ潜水を行いフォロー調査、モニタリング調査を継続的かつ随時行い今後の施工に役立てるべきであろう。