土石流危険渓流における無人化施工について


株式会社 守谷商会 浦川第7号砂防堰堤工事
(工期:平成14年 3月14日〜平成14年12月20日)

現場代理人 ○ 宮入 文夫
監理技術者    綿貫  明
山岸 英二
テ−マ 無人化施工
キ−ワ−ド 技術開発


1.はじめに

 本施工流域「浦川」は、乗鞍岳(2,418m)を源流とする唐松沢と日本三大崩壊地の一つである稗田山 (写真−1)を抱える金山沢から形成され、姫川に合流する平均河床勾配1/6、流域面積22km2のわが国でも屈指の荒廃渓流であります。周辺地質は、稗田山大崩壊により流下した崖錐堆積物が段丘し、また、流域全域には、渓岸侵食、山腹崩壊が多く見られ度々土石流が発生し、下流集落への影響が危惧されています。このような背景から、浦川第7号砂防堰堤は平成12年度より着手、 本施工においては、継続2期工事であり、副堰堤・第2副堰堤・側壁・水叩き・コンクリート打設量約6,500m3を施工します。(写真-2)



2.施工上の課題点

今年4月、唐松沢上流域で土石流が発生し、 発注者 から工事一時中止指示をうけ、工事再開に向け更なる安全対策の必要性が求められ、改善・検討を行った。

@ 監視体制の強化・改善(監視ポイントの再選定)
 4月に発生した唐松沢土石流のビデオを発注者よ り提供を受け、それをもとに発生源を特定し、現地 調査を行い監視所を現場より約5km上流まで押し 上げ、可能な限り発生源近くでの目視監視を行った。
結果、避難可能時間4分10秒を確保し、昨年度1 分30秒と比較し大幅に避難時間が確保でき、また、避難訓練による退避時間の確認・避難場所の適所など統一された監視体制のもとでシステムの強化を図り実施、改善した。また、昨年同様、当現場事務所を監視本部とし、上流域の気象状況の変化を関係業者にリアルタイムに配信し、情報交換も行った。

A 土石流抑止ポケット施工検討と実施
 (a) 無人化施工による堆砂土砂容量(ポケット)検討
 監視体制の強化(前項@)に合わせて、唐松沢・金山沢合流点付近に突発的な土石流を一時堆砂させ、 土石流抑止すると共に、流下速度を軽減し、更なる退避時間の確保を目的とした土砂ポケットの設置が検討された。施工にあたっては、未だ上流域は不安定で、土石流出が終息しない状態であり、河道内での作業は危険と判断、遠隔操作無人化による施工を採用した。(写真-3)
写真-3 【無人化施工による除石工】↓
☆ 無人化土砂掘削の概要
 堆砂容量確保断面は、地形及び効果並びに施工効率等を考慮し、浦川第2号堰堤上流を決定した。
 @ 河床幅   W=40.0m
 A 掘削土厚  平均2.5m
 B 掘削土量  V=14,500m3

☆☆ 使用機械・施工設備の選定
 @ 無人化BH(平積1.0m3級)  4台
 A 遠隔操作用固定カメラ   5台
 B 映像設備機器(モニター) 1式

☆☆☆ 掘削施工方法
 現地右岸側に掘削土砂をストックする為、無人BHにて現流河床を左岸側に転流させる。転流完了後に 無人BH4台により掘削・段跳ね作業を遠隔操作にて行い、右岸側土砂仮置きヤードにストックした。 施工にあたっては、転石等が多く困難を来したが、実作業25日間の短期間に完了させ、下流域での作業の安全性及び土石流抑止効果を図った。


3.本体工事における無人化施工の試みと機器開発の導入

@本体工事における無人化施工の採用と検討課題
 監視体制の強化、改善・堆砂土砂容量確保施工と2点の土石流安全対策を講じたが、本体工事施工に あたり、現設計内容においても無人化施工の可否を検討・実施に向け、現実的に可能な範囲で主工種に対応できる機器の開発に取り組んだ。

図-1 【無人化施工エリア図】
 ☆ 検討課題及び対応策

 a) 無人施工箇所の選定
本工事の中で最も避難時間を要する箇所を選定し、 無人化エリアを検討した。
 右記(図-1)で示す箇所、副堤・第2副堤の 最下部H=1.5m・H=2.0mを無人化エリアとし、 それ以外の有人エリアとして施工を実施した
 また、左・右岸高台の避難場所をそれぞれ設置 し、通行車両(生コン車・クレーン等)についても 緊急時に避難時間が確保できるよう現地にて 確認を行った。

b) 設計配合(18-5-80BB)有スランプコンクリート打設の検討・新機器開発の導入
 無人化施工での実績として、高流動コンクリートが挙げられるが前記でも述べた通り、現設計内容での 施工となる為、締固め、レイタンス処理、養生など使用する施工機器・品質管理・出来形管理など種々の課題が山積となり、試行錯誤を繰り返しながら無人化施工の実現に向け機器を開発し導入を行った。
 これより、当現場の無人化施工において新開発した機器及び施工方法を紹介します。


【図-2・3 無人測量ターゲットの開発】
新開発−1 無人化測量による無人化掘削 (図-2,3)
 有人エリアに据付けた光波測距儀(ノンプリズム使用)と無人エリア内に設置した自立式反射ターゲットを使用・移動し、位置・高さの管理を行った。




新開発−2 無人化掘削 (写真-4)
 機械掘削は、無人BH1.4m3級にて施工し、遠隔操作にて 有人エリア内のダンプトラックに積込・搬出する。
 なお、床付(仕上げ掘削)は、無人測量ターゲットを使用し、支持地盤を傷めぬよう高さを確認しながら、施工した。       


                    
【写真-4 遠隔操作による無人化掘削状況】 【図-4 L型擁壁・大型土のう型枠設置図】↓
新開発−3 無人化型枠設置(L型擁壁・大型土のう)

 @ L型擁壁型枠(H=1.500・H=2.00)
型枠材として、無人機械BH1.4m3級-(掴みアタッチメント装着)で据付け・転用可能なL型擁壁を採用した。 L型擁壁には、脱型しやすいようビニールシートで表面を覆い、また、断面ジョイント部に目地材(スポンジ状)を貼り付け、生コンの漏れ防止にも配慮した。なお、脱型・撤去後、転用以外のL型擁壁を右岸仮締切に使用し、施工性の向上・コスト縮減につながった。

 A 大型土のう型枠
躯体に接しない部分(埋戻し箇所)については、大型土のう型枠とした。無人機械(掴みアタッチメント装着)先端部分に吊り 具を装着・開閉装置にて据付を行った。
【写真-5・6・7 無人化型枠設置】
【図-5 コンクリート打設概念図】↑
【写真-8 無人化によるコンクリート打設】↑
新開発−4 コンクリート投入・締固め・レイタンス除去・養生の無人化施工

 @ 投入バケットとバイブレーターの開発
 コンクリート打設は、有人域よりクレーンにて 打設し、新開発したリモコンバケットにより遠隔 操作にて自動開閉させる。また、締固めにおいて は、インバーターユニットを無人BHに搭載し、アーム先端にバイブレーターを装着、遠隔操作に て締固め作業を行った。(写真-8)

 A ユニット化によるレイタンス除去装置の開発
 ハイウォッシャーユニットを無人機械に搭載し、アーム先端にウォータージェットを装着させ、遠隔操作にてレイタンス除去を行う さらに、先端部分が全周回転することにより、機能 向上が図られた。(写真-9)

 B ユニット化による簡易養生の開発
 単管を枠組し、養生ムシロをユニット化し、無人BH(専用アタッチメント装着車)によりコンクリート表面を覆う。 また、散水についてもレイタンス除去装置を使用し、作業効率を図った。(写真-10)


4.土石流危険渓流における安全対策としての無人化施工今後の課題

【写真-9 無人機によるレイタンス除去】↓
【写真-10 ユニット化による養生】↑
 今回施工技術開発を試み導入した種々の無人化機器に対して、現実的に可能な範囲で開発に取り組み、成果をみました。しかし、本機器では対応できない工種、作業効率、施工管理基準の設定等諸問題が山積しており、これらを改善し、施工の安全性・確実性・実効性・汎用性の高いものをめざして行かなければならないと考えます。


5. まとめ

 土石流の安全対策として、監視体制の強化・改善、システムの構築、土石流抑止工の設置、危険エリアでの無人化施工等多種多様な対策を講じてきました。しかし、自然の猛威は予想もつかないほど過大であります。私自身、実際に土石流に直面し危険性の高さを感じ、協議会による合同避難訓練の実施、他工区との情報交換また、現場従事者が常に危機意識を持って作業することが大事であると考えます。
 また、今後も安全対策に目を向け、更なる施工技術開発にも取り組んでいきたいと思います。
 最後に貴重なアドバイスを頂いた松本砂防事務所並びに姫川出張所、技術提供頂いた小松建設工業梶A施工業者轄。井工務店の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。




以上