昨年、俺が黒部に転勤してきて唯一楽しみにしていたのは釣りだった。
実際、黒部はかつて岩魚の宝庫と言われ、春にはサクラマスも期待できると聞いていたのだ。転勤が決まった直後、俺はしばらく気絶した。
気がつくと何故か8.6ftのサクラマスロッドとクレジットカードを持ってJ州屋のレジに立っていた。
注)富山県内はサクラマスの捕獲は原則禁止です。当時は富山はOKと思いこんでた・・・ううっ
しかし、そんな俺に黒部川の反応は渋かった・・・
故開高健氏の銀山湖釣行のガイドをした人からも「(ルアーフィッシングは)開高さんより上手い!」と太鼓判を押されたこの俺の腕を持ってしても駄目だった。
頭に来た俺の口からは「こんな川埋めてやるー!」などとすさんだ言葉も洩れがちになったものだ。(^-^;
一般にトラウトなど渓流魚の棲息状況はそこいらの石についた水棲昆虫のストック量に左右される。
で、黒部川を見ると、わずかなカゲロウ類以外は虫が全然居ない・・・。
なんてこった!俺のホームグラウンドの川と比べると数も種類も大きさも貧弱過ぎる!
特にトビケラ類(カディス)が少ないのには驚いた。
魚野川や五十嵐川だとそこいらの石どこを見ても裏にはびっしりとヒゲナガカワトビケラが付いてるんだけどなあ。
トビケラは成虫になるまで数年間、川の中で過ごすので1年で死ぬカゲロウ類(メイフライ)と違ってシーズンを通して魚の餌となるのだ。メイフライは名前のとおり春から初夏にかけて羽化産卵してしまうとそのあとしばらくは川の中にはチビの幼虫しか居なくなる。カゲロウは水棲昆虫としては有名だが魚にとってはいつでも食べれるご馳走ではないのだ。
「富山県の陸水生物」って書物にも富山県東部の川は水棲昆虫が少ないと書かれていた。
何でも河道の変動が激しく水温も低い上に、貧栄養なのだそうだ。
トビケラが棲息するには砂などに埋もれない安定した河床が必要だが、土砂発生が多く、河床変動の激しい扇状地急流河川の黒部川では仕方が無いのかもしれない。
トビケラは流下する落ち葉などの有機物(デトリタス)をバンバン食ってくれるから、s最近問題になっているダムのヘドロ問題もダムに落ち葉とかがたまる前に上流河道内で水棲昆虫に固定されれば影響は最小限で済むはずなのだが・・・
う〜ん、なんとか、水棲昆虫を増やす知恵は無いものですかねえ?
もうひとつ、黒部に来て気になったのは、黒部の釣りが解禁→放流→釣り人殺到→クーラーボックスいっぱいでお持ち帰り・・・の光景がよく見られることだった。
まあ、全ての人がそうではないと思うけど多かったのは事実。
餌釣りでは一般に放流魚の9割以上がそのシーズンで釣りきられるそうなので全部持って帰るということは駆除作業をしてるようなもの。
一匹も食べるな!とは言えないけど、そろそろ川の魚を食料でなくて自然のシステムの一部として認識することが必要な時期に来てるのではないかなあ?
そこまで言うなら釣りを止めろ!と言われるかもしれ無いけどキャッチアンドリリースをすれば魚は確実に残るのだ。
よく、「リリースしても魚は死ぬから食べたほうがいい。」といってる人が居るけど、アメリカでカットスロートトラウト(ニジマスの近縁種、こっちのイワナとかよりはずっとひ弱だよ)を調査した結果では、餌釣りでは60%が、ルアーフライでは80%以上が死なずに生き延びたんだそうな。さらにカエシの無い鉤で釣った場合は90%以上が生き残ったっていうからこの考えはナンセンスなのがわかる。(俺はこの論文を読んでから鉤を全てバーブレスにしている。)
実際に口に傷のある釣られて放された魚を再び釣ることって良くあるのだ。
黒部の釣り人の皆さん、魚を大事にしましょうよ。
そんなこんなで、休みの日は主に新潟や長野で釣りをしている。
でも、やはり黒部に居るからには豊かな黒部川で釣ってみたい。
単に魚だけじゃなく、水棲昆虫や沈水植物、抽水植物、河川内の植生から上流山間地の樹林、瀬と淵などの川の地形、伏流水など水のダイナミックな循環、流域住民の川に対する意識に至るまで豊かになれば理想だ。
その為には河川管理を行う者として色々考えなければならないなあと思う今日この頃でした。

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