治水効果があって環境にもやさしい粗朶沈床工法
:::: 志田 長春氏(北陸粗朶業振興組合長)

再生産が可能な粗朶による護岸対策
聞き手  粗朶沈床工法とはどのような工法なのですか。
志田氏  粗朶とは里山から伐採した木の枝のことです。粗朶沈床工法はこの粗朶を使って河川や海岸の護岸対策に用いられる工法です。粗朶を護岸対策に利用することは、わが国でも寛政・亨保年間より行われていました。
 明治に入って、オランダ人技師により粗朶沈床工法が伝えられると、海岸の防波堤の基礎工事や大きな河川に堤防を築く工事をする際の根固工として広く採用されるようになりました。
 粗朶工法は河川では主に川底の地盤である河床を固め、浸食を防ぐために使われています。たとえば信濃川が洪水になった場合、河床が洗掘され川底が不均衡になることがあります。それにより護岸が崩壊したり、橋脚を支える土が川底から削り取られたりと非常に危険な状態になります。粗朶沈床工法はこのような場合の対策方法として有効なのです。
聞き手  粗朶沈床工法の効果についてお聞かせください。
志田氏  粗朶沈床工法に用いる粗朶にはナラ、クリ、カエデ、マンサク、サクラなどの里山の広葉樹が使われます。これらの広葉樹は柔軟性に富み、粘りがあって河床の変化になじみやすく、緩流河川の根固めや水深・水勢調整をする水制に適しています。
粗朶沈床工法は単に河床の洗掘を防止して護岸や堤防などを守るだけでなく、環境保全のためにもきわめて効果があるといえます。その理由はこの工法の99%が広葉樹の枝や稲わらなどの自然素材で構成されているからです。自然素材である粗朶は、素材間の空隙の形が多様であるため川に流速の変化が出て、さまざまな水中生物が生息できる空間になります。また、水の中では半永久的な耐久性を有している一方で、空気中では役目を終え自然に還るのです。
粗朶の利用は里山を管理する面でも効果があります。粗朶の伐採によって里山が再生するのです。たとえば適度な伐採が里山の密生化を進め、常緑広葉樹の繁茂による落葉低木の立ち枯れや花着きの悪さを防ぎます。
 さらに注目すべき点は、粗朶が再生産可能な資源であるということです。粗朶を手に入れるために広葉樹を伐採しますが、決して資源の枯渇にはならず、むしろ里山を健全に育てることにつながります。つまり、伐採跡地には春先になると切り株から新芽が出て、1年で1.1〜1.5メートル前後の高さにまで成長します。そして7〜10年位で再び伐採期を迎えて立派な粗朶になります。このように再生産が可能なのです。粗朶の伐採のために道ができ、また里山の管理を行うことで遊山者が訪れるようになるかもしれません。里山の過疎化を防ぐことにつながるのではないでしょうか。また、粗朶の伐採には地元の高齢者の方々も従事しており、経験を活かすことのできるよい就労の場にもなっています。

海外での実績もある新潟の粗朶沈床
聞き手  粗朶工法は新潟県で盛んだそうですが、他の都道府県で採用されているのですか。
志田氏  現在、粗朶工法を受け継いでいる所は全国でもきわめて少なく、新潟県はむろんのこと、茨城県と岐阜県、東北地方、九州地方の一部にあるくらいです。全国の中で新潟県が一番多いのです。新潟県に粗朶工法が残ったのは、河川が多いことと、信濃川や阿賀野川などの河川の地形や土質が粗朶工法を採用するのに適していたこと、そして生産している人たちが一生懸命粗朶づくりに取り組んだことからだと思います。
 歴史をふり返ると、昭和30年代から50年代の初め頃までは鉄やコンクリートを使用した工法が全盛の時代で、粗朶工法は危機的状況にありました。しかし平成9年になって河川法が改定されると、世の中の環境に対する関心が高まり、環境にやさしい粗朶工法が再び注目されるようになりました。
聞き手  海外においても実績があるそうですね。
志田氏  平成11年に国際建設技術協会より、東南アジアのラオス国を流れるメコン川の護岸の浸食防止に協力してほしいという依頼がありました。現地に調査団を派遣し調査をしたところ、現地で粗朶を調達できるという見通しがついたので工事をすることになりました。平成12年11月から粗朶を集めて組み立てを始めました。平成13年1月には粗朶職人を現地に派遣して特別指導を行い、同年2月には船上クレーンによる水上施工で粗朶沈床の沈設を完了しました。
 このあと、施工した沈床に砂が入り込んで、粗朶沈床と河床が一体化していることが確認されました。また、そこには魚が寄ってくるため、子どもたちが毎日この場所で魚釣りをしているそうです。
 このように試験施工が成功したため、今度はODA(政府開発援助)の資金が投入され、ラオス国内の3カ所に粗朶沈床を施工することになっています。
聞き手  国内での事例をご紹介いただけますか。
志田氏  国内では、歴史的に粗朶工法は実証済みのため、その効果の程は当たり前の事実になっています。事例を1つ紹介すると、以前信濃川河畔の花火の打ち上げ場所が決壊したことがありました。ここに粗朶沈床工法を取り入れたところ、崩れた場所付近の川の流れが変わりました。結果的に危険な護岸を修復することになり、粗朶沈床の効果を実証することができました。

人が親しめる河川になってほしい
聞き手  今後の河川の在り方について、ご意見がありましたらお聞かせください。
志田氏  河川の周辺に住んでいる人たちに川に親しみを持ってもらうことが大事です。そのために治水だけでなく、そこで遊べるような河川になってほしいと願っています。以前に比べ休日も多くなっています。休日に遠くまで行かなくてもすぐ近くで魚釣りができたり、夏になれば安心して泳ぐことができたりするような川が増えてほしいと思います。
 私の子どもの頃は今のようなコンクリートの護岸ではなく、なだらかな傾斜になっていて土面が川の中まで続いていました。年長の人が川に入ってヤスという道具で魚を取り、みんなで焼いて食べた思い出があります。その頃のようにはいかなくとも、水がきれいで人が親しめ小生動植物が共生できる川であってほしいと思います。