アルプスSABO NEWS

Date:
2014/10/1
現場の魅力について現場の技術者さんに聞いてみました
~姫川出張所管内~
 (事)副所長が現場の技術者さんに直接現場の魅力を伺う第2弾。今回は姫川出張所管内を取材しました。
 
○取材日時:平成26年9月17日(水)
 ○話を伺った方:株式会社相模組 長澤謙児さん(42)
             ・現在の担当業務:浦川下流第1号砂防堰堤補強その4工事
             ・監理技術者
            株式会社相模組 瀧澤文也さん(23)

 ○紹介者:松本砂防事務所姫川出張所 技術係長 岩佐将之
 ○聞き手:松本砂防事務所()副所長 渡辺政信
 ○記 録:松本砂防事務所総務課 専門職 丸山 淳

1.現場事務所にて
①この仕事についたきっかけは(瀧澤さん)
 中学生の頃から建設業に就こうと考えており、地元の工業高校で土木を学びこの会社に就職しました。現在入社5年目です。
 砂防の現場経験はまだ少ないですが、目に見えて出来上がっていくのが魅力だと思います。

②砂防の現場の特徴は(以下 長澤さん)
 地元工業高校で建築を学びこの会社に入社して24年目です。
 建築はだいたい90度の角度で設計されるものですが、土木はいろいろな形が造れたり、いろいろな工種を経験できるところがおもしろいと感じています。
 最近は、浦川下流第1号砂防堰堤補強工事の「その1・その2工事」で監理技術者を、今年「その4工事」で監理技術者を勤めています。砂防の現場は、コンクリートの打設量が多く(80~100㎥/日)コンクリートの品質管理が大事です。
 また、自然環境が厳しい場所で、降雪までの短期間に施工する必要があり、気象予測会社の降雨予測等を確認しながら作業しています。

③南木曽町や広島市の土石流災害で思うこと
 身近な土石流災害といえば平成7年の「蒲原沢土石流災害」です。これを契機に工事の安全対策が徹底されてきました。
 今回のように民家の近くで土石流があるとその被害の大きさが分かると思います。
 近年の異常気象を考えると、今までは大丈夫だったというこれまでの考えが変わってくると思います。

④モチベーションを保つ秘訣は
 「やりがいのある仕事」と感じています。気象状況も厳しく体力的・精神的に大変ではありますが、出来上がったときの感動は他の職業にはないと感じています。
 また、1年から数年かけて造り上げる工事であり、地域の防災や発展に貢献できているという思いがあります。
 

⑤ノウハウの伝承で工夫している点は
 技術者として、実際に現場に出て見て細かく教えていくことが必要と思いますが、相手のやる気とこちらの思いが一致しないと難しいところがあります。

⑥人材確保で工夫している点は
 地元の土木系高校から職場体験をしてもらい、実際に現地で測量やコンクリート打設等を経験してもらっています。おかげさまで今年も新規入社があり継続して実施できれば良いと思います。このような体験は学校で勉強したことを現場で実際に確認できる良い機会だと思います。
 また、建設業では現場管理と直営部門がありますが、現場管理だけではなく職人の育成も大切なことで、建設業としては両方のイメージを変えていかなければならないと思います。

⑦地元対応について
 下流部の住民が非常に協力的であり、この現場では土石流の監視を地元の方にお願いしています。やはり、地元の方の理解がなければ円滑な工事の進捗は望めません。

⑧今の現場の特徴
 当該工事の特徴は、「型枠ブロック」を据付けそこに生コンを打設して本体を立ち上げていきます。砂防堰堤本体でこの工法を採用するのはこの現場が初めてと聞いています。
 規格品の型枠ブロックなので、ブロックに転落防止の工夫が必要でした。
 また、この工法は型枠ブロック及び堰堤内部に補強鉄骨(H鋼)を施工することにより、砂防堰堤の断面を縮小してコスト削減(コンクリート打設量減)及び工期の短縮を図るとともに、危険な場所での作業時間を短縮できるので作業員の安全確保が期待できます。

⑨エピソード等
 2年前の「その2工事」の現場が一夜にして土石流に埋まり、資機材も流出したときは心が折れそうになりましたが、1ヶ月かけて現場を復旧し工事を再開することができました。
 幸い人的被害はありませんでしたが、土石流で現場が埋没したのは初めてのことであり、気を引き締めていこうと思いました。
 また、この現場は土石流が頻繁に発生するので(H25は20回、H26は4回)、土石流対策として、現場上流の河道を掘削し土石流のポケットを設けており、約1万㎥を一時的に捕捉できるようにしています。



2.取材を終えて
 今回取材した現場は、姫川の左支川浦川(うらかわ)です。
浦川は、北アルプス風吹岳近くに源を発し、一旦雨が降ると頻繁に土石流が発生し、時には建設中の砂防堰堤すらのみ込んでしまう日本有数の荒廃河川です。
 このような厳しい環境ですがそこに勤める技術者たちは強い使命感をもって、自然の猛威を受け入れ、かつ自らの創意工夫で安全確実に工事を完成させています。
 土石流災害の恐ろしさを最も良く知っている彼らは、まさに現場の最前線で戦う技術者・職人集団だと感じました。
 また、山奥でしかも決して派手な仕事ではありませんが、このような砂防施設のひとつが完成するたびに下流域の安全度・安心度が増していくのだと実感しました。

 3.浦川(ここ)で行っている砂防工事
 明治44年(1991年)8月8日、浦川の上流部にある稗田山が大崩壊し、麓の集落がのみ込まれ23人が亡くなり、姫川本川がせき止められ甚大な被害をもたらしました。その土砂量は約1億㎥(東京ドーム約80杯)といわれ、「日本三大崩れ」のひとつに数えられています。その後幾たびか土石流災害が発生し、100年以上たった現在でもその荒々しい山肌に緑が定着することはない日本有数の荒廃河川です。
 今回の現場は、「浦川下流第1号砂防堰堤補強その4工事」です。補強といっても、既設堰堤をそのまま補強するのではなく、ほとんど埋没している既設堰堤を副堰堤として活用し、その上流部にさらに大規模な砂防堰堤(堤長116m・高さ19.6m)を建設するもので、4年の歳月をかけ今年度完成予定となります。
○型枠ブロック
 通常は職人さんが型枠を一つずつ製作し、そこにコンクリートを打設していきますが、この工事では「自立式大型型枠ブロック(高さ1m×幅2m)」を据付け、コンクリートを打設していきます。これにより工期の短縮、コストの削減、さらには作業員の安全確保が期待できます。
 この砂防堰堤では約1,000個のブロックが使用されていますが、ただブロックを積み上げるいっても、おもちゃのブロックとは訳が違います。特に上流側の施工では規格品の型枠ブロックの傾斜が設計書と違うため現地で角度を調整する必要があり、それを一枚の板のように積み上げるところに職人の技が光ります。


○ラバースチール
 砂防堰堤の水が流れる天端にはラバースチールという厚さ5㎝の黒いシートが貼られています。これにより砂防本体への土砂の衝撃を和らげ耐摩耗性を高めコンクリートを保護する機能を持っています。
○土石流ポケット
 浦川下流砂防堰堤の上流には「土石流ポケット」を設けています。約1万㎥(25mプール約30杯)以上の土石流を一時的に捕捉し、下流の工事現場への影響を小さくすることができます。

 こうして造られる砂防堰堤は現地の状況にあわせて様々な形状や工法がとられています。ただのコンクリートの塊じゃないってこと分かりましたか?
※写真・「File Data」ボタンをクリックすると拡大写真・データを見ることができます。


アルプスSABO NEWS一覧へもどる