どちらもアゲハチョウの祖先種の特徴をもつ小型のチョウ。雪どけ直後の早春、太陽の光がよくとどく雑木林で、羽をいっぱいに広げてよく日なたぼっこをしているよ。体があたたまると地上すれすれにゆったりと飛び回るんだ。みつを吸いにいく花はカタクリ、ショウジョウバカマ、スミレ、ハルリンドウといった背丈の低い草が多いよ。

 ギフチョウとヒメギフチョウは、たいへん近い種類で姿も形も非常に似ていて、飛んでいるところを見てもかんたんには見分けがつかない。しかし、ギフチョウは日本、しかも本州にしかすんでいない。それに対してヒメギフチョウは日本の本州、北海道のほか朝鮮半島から北の地域にも広く分布しているんだ。
 ギフチョウの祖先は、第三紀 といわれる3000万年前、すでに地球上に生息していたとされている。そして200万年前の第四紀 ころに日本に渡ってきたようだ。それから約1万年前に最後の氷期が終わるまで、何回もの氷期を、生活する場所を変えたり、形を変えながら生きのびてきたんだね。

 このギフチョウ、子孫をのこすための交尾の仕方が変わっているよ。飛んでいるオスとメスがぶつかったかと思うと、すぐ地上に落ちて交尾するんだ。交尾が終わると、オスはそのあと液を出して黒い色をしたうすい板のようなものをメスの交尾口につける。この交尾板がじゃまになって、メスは二度と交尾ができないというわけだ。
 

●ギフチョウの一生
すみ分ける2種類のギフチョウ
 境界上の姫川流域では両方見分けられるよ
 原始的なチョウとして似た特徴をもつ2種類のチョウなのに、なぜ生息している地域がはっきり分かれているんだろう。
 その答えは、幼虫がたべる葉のちがい。ギフチョウの幼虫は基本的にカンアオイの仲間のヒメカンアオイという草の葉をたべ、ヒメギフチョウの幼虫はウスバサイシンをたべるからなんだ。そこで2種類の植物の分布とかさなり合うようにチョウの分布も本州中央部で東と西に分けられている。この分布境界線は「リュードルフィア線」と呼ばれていて、ライン上にはギフチョウとヒメギフチョウのまじりあってすむ地帯が8ヶ所ほど確認されている。姫川流域もその一つ。特に源流域や糸魚川市の平岩付近で両方のチョウを観察できるチャンスがありそうだ。4月下旬から5月下旬にかけて「春の女神」と呼ばれる2種類のうつくしいチョウを見つけに行こう。だけど絶滅が心配されるチョウだから、そっと観察するだけにしようね。