中学生の部 銀賞作品 「川を思う」 堀  啓奈  須坂市立墨坂中学校
 
 私は小学四年の頃から、毎年夏休みに川へ遊びに行っています。  その川は、「湯っ蔵んど」より向こうにあって、大笹街道の横を流れている、宇原川です。
 宇原川へは父と兄と三人で遊びに行きます。  宇原川に何をしに行くかというと、川上りです。水着の上にライフジャケットを着て川靴、といった格好で険しい川道へ挑みます。
 上流の方はおもしろいです。  まず、水がきれいです。だから、すごくきれいな水にしか住まないサンショウウオも、宇原川に住んでいます。私はサンショウウオに会うのが楽しみの一つになっています。
 次に、上流にある石は皆個性的です。同じ場所にある石でも、色や形や大きさが全く違うのです。  それから、上流の方は水の流れが激しく、滝がたくさんあります。
 川上りでは、小さな滝をたびたび上りますが、とても勢いが強く、上り切るのにたいへん苦労します。でも、水の力を押しのけて滝を上り切ったときは、自然の力に勝ったようでとても嬉しいです。それが快感で楽しいです。また、故郷に帰る鮭もこんな気持ちなのかなぁ、と思ったりもします。  もう一つの滝の楽しみ方があります。裏見滝です。滝の裏側に顔や体をつっこんで、裏から滝を見るのです。滝の裏にあまり空間がないので、結局滝に頭をつっこむ形になって水の中にいるみたいに息が苦しくなるのですが。
 小さな滝以外にも楽しみはあります。大きい岩が水にけずられて滑り台のようになっているところがいくつかあります。今はまだやったことはありませんが、いつか滑ってみようと思っています。  現在の川上りのゴール地点となっているところには、川の端から端まである、とてつもなく大きい川が川をふさぐようにしています。ここまで辿り着けないときもあるので、ゴールの岩に行くたびに自然のすごさに感動してしまいます。まだここ以上上へ行ったことがないので今度は頑張って行ってみたいです。
 川上りを終えて上の道路にあがると、光がパアッと広がってすごく明るく感じます。知らぬ間に川上りを始めてから一時間三十分という長い時間がたっていて、結構上の方まで上っています。今まですごいことをやってきたから、車までの坂を、少し胸を張って歩けます。  今から二十四年前、一九八一年(昭和五十六年)八月二十三日に台風十五号が須坂市へ災害をもたらしました。この災害で須坂市では民家や農地など大変な被害を受け、その上十人もの命が奪われました。その被害も、十人の命も、全て宇原川が氾濫したためです。そして今、須坂市では八月二十三日を「須坂市民防災の日」としています。
 防災のためでしょうか。今、宇原川の下流の方はコンクリートで整備されています。整えたおかげで、川で遊ぶ子供は増えたかもしれません、防災に役立つかもしれません。  しかし、そのかわりに魚がいなくなった気がします。私も以前は下流でももっと遊びました。それはカジカやサワガニがいたからです。それに、他の子どもたちにも魚を捕る楽しみとか川をもっと味わってもらいたいです。
 だから、今以上にコンクリートで整備するのは止めてほしいです。二十四年前のような大きな災害にならないように防災するのはごもっともだと思います。でも、コンクリート整備の他に自然を壊さないような防災の方法はないか、と私は思います。  例えば、四国を流れている四万十川、岐阜の郡上八幡を流れる吉田川、木曽川のアテラ渓谷、千曲川。皆、壊してはいけません。
 四万十川を壊したらどうなるでしょうか。四万十川を愛す日本中の人が悲しみます。四国の水が絶えてしまうかもしれません。日本最後の清流がなくなってしまいます。  吉田川を壊したら、郡上八幡の雰囲気が変わってしまいます。夏、子供たちは飛び込みができなくなり、川で野菜を洗えなくなります。鯉や鮎がいなくなってしまいます。
 アテラ渓谷を壊したら。あのきれいな水は消え、乾いた渓谷となるかもしれません。木は皆雨水に頼るようになるかもしれません。キャンプに来る人は、何を目的に来たらいいでしょうか。  千曲川は信濃川と言われ、日本最長の川です。この川を壊したら、長野県民が誇っていたものが一つなくなります。
 宇原川も同じことです。  コンクリートで固めたり、ダムを造ったりしないでください。
 川上りをやろう、と言いだしたのは父です。父を前より見直しました。プールより川を好きになりました。  宇原川を好きになりました。サンショウウオを好きになりました。大切なものをもらいました。
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