特 集 阿賀川と河川伝統技術
【阿賀川河川伝統技術講演会】
講演録:猪苗代湖の魚類と漁具漁法

会津生物同好会  成田 宏一

※ 本講演録は平成13年12月21日開催の第5回阿賀川河川伝統技術検討懇談会で成田氏が講演された内容をとりまとめたものである。



1.猪苗代湖の諸元
 猪苗代湖は、日本海と太平洋の両方に流れているという日本でも珍しい湖です。日橋川は日本海へ、安積疎水は太平洋へ注ぎます。一方、流入する主な川では、流入量の約40%を占める長瀬川があり、湖南の舟津川は湖の主要魚であるウグイの主産卵場になっています。

 猪苗代湖の特性としては、表−1にあるように、湖沼型は酸性湖に類型化されています。このことはあとで触れますが、湖への流入量が一番多い長瀬川が原因です。また、面積104.8km2というのは、琵琶湖、霞ヶ浦に次いで日本では3番目に大きな淡水湖です。
 自然湖岸65.87%、人工湖岸24.21%とかなり改変された部分が多い湖といえます。また、平均深度51.5mは全国でも比較的深い湖です。
 猪苗代湖の総貯水量は54億m3、長瀬川の年間流入量が約10億m3であるといわれています。また、湖の利用水深3.24mの貯留量3.3億m3の範囲で農業用、水道及び発電用水と多目的に利用されています。


2.生息魚類と漁具漁法
(1)生息魚類
 猪苗代湖には、二十数種類の魚が生息しており、その一部を図−2に示しました。この図は、表層から低層まで魚のすむ生態によって分けて書いており、表層にはメダカがすみ、底にはカムルチー(雷魚)がいます。猪苗代湖の主要魚はウグイとギンブナといわれていますが、その他にもカマツカやドジョウ、ヨシノボリなどがすんでおり、タナゴの仲間であるアカヒレタビラは、湖内や流入する河川でも見られます。



図─1 猪苗代湖周辺の略図


図─1 猪苗代湖周辺の略図



表─1 猪苗代湖の特性

 また、メダカやスナヤツメは環境省のレッドデータブックで希少種に分類されていますが、猪苗代湖ではあちこちに見られ、スナヤツメは湖南の舟津川などにすんでいます。ウナギは毎年地元の漁協が放流しており、ナマズは間違いなく再生産しています。最近問題になっているバス類も、湖北の比較的浅い水域に生息しており、在来種への影響が懸念されます。

 エゾイワナは、海に分布するアメマスの陸封型といわれており、猪苗代湖には相当古くからすんでいた記録があります。明治時代の試験場の報告書には、アメマスが漁獲量の大部分を占めていたという記録もありますが、現在は非常に少なくなっています。なお、エゾイワナは、猪苗代湖の特殊な酸性水に対応して、エラの組織に特異な粘液の細胞を持っていることが明らかにされており、昔からすんでいたエゾイワナが酸性湖という大変厳しい環境の中で生きてゆくためにそのような組織を作りだしたことが考えられます。

 今日は魚についてはウグイだけを取り上げてお話ししたいと思います。
 ウグイはアカハラ、またはハヤと呼ばれ、最も親しまれている魚です。福島県の内水面漁獲量1,600トンのうち、ウグイは3番目に多く170トンくらいであり、猪苗代湖では40〜60トン程度です。
 ウグイの仲間は何種類かいますが、猪苗代湖にはウグイしかいません。会津には3種類のウグイがおります。一般にアカハラといわれているウグイ、ホウナガといわれているエゾウグイ、もう一つはウケクチウグイであり、エゾウグイとウケクチウグイはなかなか人目には触れない魚です。

 次に、ウグイの産卵場について取り上げたいと思います。生き物全ては如何にして次の世代を多く残すかという命題を背負って生きてると考えます。ウグイの生き残り作戦の一つは、卵が丈夫で元気に育つところを選んで卵を産み付けることです。

 図−3はウグイの人工産卵場の構造を示しており、マセ場といわれています。自然の河川でウグイが卵を産む場所は、礫があり、早い流れがあるところです。そこで、自然の河川に近い人工の産卵場をつくり、そこに集まるウグイを投網で取っています。猪苗代湖では舟津川がウグイのマセ場をつくる場所になっており、大正時代からマセ漁業が行われています。


図─3 ウグイのマセ場(舟津川)断面図


(2)漁具漁法
 このように様々な種類の魚がいる猪苗代湖ですが、次に、このような魚をどんな方法で捕っているかということを話したいと思います。

 図−4は「刺網」を示しています。節というのは、30cmの間に節(糸と糸の結び目)がいくつあるかを示しており、猪苗代湖の刺網は比較的小さい目あい、13.5節の網を使っています。網丈は約1.2m、一反の長さが約40mで、北岸ばかりでなく、湖の中のほぼ全域で使っています。ただし、あまり深いところには魚はいないので、水深30〜40mより浅い湖崖部で日没頃に施網し、次の日の朝、揚網します。

 次に、図−5は「どう」であり、ドジョウやカジカなどを取ります。また、図−6は「四ツ手網」の一種でゴロ曳きと呼び、湖北の一部で使っており、ヨシノボリやドジョウを取る漁具です。

 図−7の「投網」は先ほど話をしたマセ場のウグイを取る漁具であり、色々な網目があり、猪苗代湖の場合は17節の網で、重りは鉛や糸に鉛を組み込んだものを使っています。また、図−8の「地曳網」は会津では猪苗代湖でしか見られない漁具であり、主にはフナを取っています。春先、フナとコイは産卵場を探して比較的岸の方によって群れ泳ぐので、それをねらって網を巻いて曳きます。

 図−9は猪苗代湖独特の漁法「す建て網」であり、垣網・囲網・魚捕部からなっています。琵琶湖ではエリと呼ばれている漁具であり、それを猪苗代湖周辺で入手できる材料を使って改良したものです。




図−8 地曳網



図−9 す建て網詳細図


図−4 刺網




図−5 どう




図−6 四ツ手網



図−7 投網


3.環境
 先ほど、猪苗代湖は酸性湖であり、その原因は長瀬川であるということを述べました。長瀬川は、猪苗代湖の流入河川の中で、流入量が一番多く、猪苗代湖より300mほど高い位置にある檜原湖から流れ出ています。その支流には酸川という安達太良山を源流にする川があり、この酸川が酸性水を運び、長瀬川に合流し、長瀬川が途中から酸性になり、湖も酸性湖になっているということです。図−10はこれを模式的に示したものです。


図−10 長瀬川の酸性水域の模式図とPH観測値

 図にある数字は水の中性・酸性・アルカリ性を示す値(PH)であり、PH7が中性、それよりも小さいと酸性、大きくなるとアルカリ性です。この図より、酸川の上流にある硫黄川のPHは2.34であり、当然魚はすんでおらず、特殊な耐酸性の藻類や昆虫類が何種類か住んでいます。正常な河川(高森川,達沢川,小田川)も幾つかあり、そこでは普通の河川と同じように多様な生物が見られ、渓流にすむヤマメ、イワナもすんでいます。

 また、猪苗代湖のPHは4.80という値になっていますが、魚は結構たくさんすんでいます。ただし、猪苗代湖にいる二十数種の魚の大部分は、PH値が6や7と比較的高い湖岸帯をすみ場や産卵場にしています。

 次に、図−11に示す湖の水温について見ると、実線表示の場合の表面水温は22.5度くらいですが、数メートル下がると10度くらいになっています。これは、例えば真夏にボートから飛び込むというようなことをすると、間違いなく心臓に大きな負担がかかるということです。魚の場合も水温が5度〜10度違うと、間違いなくひっくり返ります。ですから、人間にとっても目に見えない水温というものには、気をつけた方がよいと思います。
 また、図−12の透明度の経年変化を見ると、猪苗代湖の透明度が低くなっていることがわかります。1930年には27.5mという最大の透明度が観測されていますが、最近の透明度は約10m前後になっています。


図−11 昭和52年8月における水温躍層例



図−12 猪苗代湖における夏季透明度の経年変化






講演会の開催と講演タイトル
第1回「阿賀川―川と人のその歴史―」会津史学会 大塚實氏
第2回「戸ノ口堰用水の歴史と現状」 戸ノ口堰土地改良区 事務局長 小松武彦氏
   「近世の河川改修―阿賀川(大川)を巡って―」 会津史学会 海老名俊雄氏
第3回「阿賀川の舟運」 会津史学会 川口芳昭氏
   「河川伝統技術と現代的評価」 日本大学工学部 土木工学科 専任講師 知野泰明氏
第5回「住民参加の町づくり〜会津若松市民の水環境意識を中心に〜」 佐々木篤信委員




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